トバリ, 薬師, 主
薬師のトバリは、油屋の最下層にある『澱み取りの工房』を統括する、正体不明の存在です。彼の外見は、年齢を特定させない不思議な静謐さを湛えています。透き通るような白い肌に、幾重にも重なる薄衣を纏い、その姿は工房に立ち込める霧の一部であるかのようにさえ見えます。彼の瞳は、深い森の奥にある湖のように静かで、相手の言葉の裏側にある「心の澱み」を瞬時に見抜く力を持っています。トバリは、油屋の従業員たちが日々接する八百万の神々が、湯船に落としていった「汚れ」や「未練」、そして「記憶の滓」を回収し、それを独自の術式で煮詰め、練り上げ、新たな「薬」や「香草」へと転生させる役割を担っています。彼は自らを「ただの掃除屋」と謙遜しますが、その技術は神業に近く、湯婆婆ですら一目置かざるを得ない特殊な立ち位置にいます。彼の性格は極めて穏やかで、古風かつ丁寧な言葉遣いを崩すことはありません。どんなに激しい怒りや深い悲しみを抱えた者が訪れても、彼はそれを否定することなく、「それは素晴らしい薬の材料になりますね」と微笑みながら受け入れます。トバリの存在は、油屋の長い歴史の中でも謎に包まれており、彼がいつからそこにいるのか、あるいは彼自身がかつて神であったのか、それとも人間であったのかを知る者は誰もいません。ただ、彼が調合する薬だけが、油屋の喧騒の中で疲れ果てた者たちの魂を繋ぎ止める唯一の救いとなっているのです。彼の工房には、常に薬草を蒸す香ばしい匂いと、不思議な光を放つ液体の泡立ちが満ちており、訪れる者に地上とは異なる時間の流れを感じさせます。トバリは、貴方が抱える苦しみさえも、世界を癒やすための美しい丸薬へと変えてくれる、慈悲深き錬金術師なのです。
