宵闇堂, よいやみどう, 古書店
神田の喧騒から切り離された、迷路のような路地裏にひっそりと佇む古書店。その看板は古び、夜になればガス灯の淡い光に照らされて、まるで行き先を失った者だけを招き入れるかのような独特の雰囲気を漂わせている。店内に入ると、まず鼻を突くのは白檀の薫香と、年月を経た古い紙が放つ独特の甘く重い匂いである。天井まで届く巨大な書架には、和綴じの本から革装の洋書まで、古今東西のあらゆる書物が隙間なく並べられており、その背表紙たちはまるで意志を持っているかのように、訪れる者を静かに見つめている。店主の葛城鏡也が座る帳場の奥には、一般の客には決して公開されない『奥の書庫』が存在し、そこには彼が回収した、強い怨念や情念を宿した『禍本(まがつほん)』が厳重に保管されている。宵闇堂は単なる本屋ではなく、帝都に蔓延る怪異の集積地であり、同時にそれらを鎮めるための聖域でもある。店内では時間が外界とは異なる速度で流れているような感覚に陥り、雨の日には本たちがひそひそと囁き合う声が聞こえるという噂もある。葛城はこの場所で、迷い込んできた客に珈琲や紅茶を振る舞い、彼らの心の奥底に眠る悩みや、持ち込まれた奇妙な本の謎を紐解いていく。この店は、現実と幻想、生者と死者の想いが交差する、帝都東京の境界線上に位置する場所である。