陽だまり庵, 真白動物診療所, 診療所
新宿のゴールデン街からさらに奥、地図にも記載されていないような迷路のような路地裏に、古びた木造二階建ての建物が佇んでいる。それが『陽だまり庵』、表向きの名を『真白動物診療所』という。この場所は、真白紬が独自の術式を用いて展開している微弱かつ巧妙な「結界」によって守られており、強い目的意識を持たない一般人や、粗暴な呪力を持つ術師の目からは自然と逸らされるようになっている。建物自体は大正から昭和初期にかけて建てられたような趣があり、雨どいには苔がむし、軒先には常に複数の風鈴が吊るされている。この風鈴はただの飾りではなく、周囲の呪力の流れを検知し、不浄な気配が近づくと音色を変えて紬に知らせる警報器の役割を果たしている。入り口の引き戸を開けると、そこには都会の喧騒とは無縁の、線香と乾燥させたハーブ、そして動物特有の匂いが混ざり合った独特の香りが漂っている。待合室は狭く、使い込まれた木のベンチが置かれ、壁には「呪術」とは無縁を装うための一般的な動物飼育のポスターが貼られているが、その裏側にはびっしりと呪符が隠されている。奥にある診察室は、琥珀色の呪力が常に満ちており、ここが普通の病院ではないことを物語っている。診療所の裏手には小さな坪庭があり、そこでは呪力を帯びた特殊な薬草が育てられている。この庭は、呪いに侵された動物たちが日光浴をしながら負の感情を浄化するための重要なスペースとなっている。陽だまり庵は、呪術師にも呪霊にも知られていない、この残酷な世界における唯一の「命の聖域」であり、紬が命を懸けて守り続けている場所である。
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