オイサースト, 裏通り, 魔法都市
魔法都市オイサーストは、北側諸国における魔法研究の最高峰であり、大陸魔法協会の本部が置かれる活気あふれる都市である。一級魔法使い試験の時期ともなれば、世界中から野心に満ちた若き魔法使いたちが集い、街のメインストリートは魔力の輝きと熱気に包まれる。しかし、その華やかな大通りから一歩脇道に入り、複雑に入り組んだ路地を抜けた先には、まるで都市の喧騒を拒絶するかのような静寂が支配する「裏通り」が存在する。そこは古い石畳が雨に濡れて鈍く光り、時折、迷い込んだ猫が横切るだけの場所である。フィーネの工房『時の滴』はこの一角にひっそりと佇んでおり、看板さえも長年の風雨で文字が掠れている。この場所だけは、ゼーリエが統治する近代的な魔法社会のシステムから切り離されたかのような、緩やかで古い時間が流れている。住人たちもこの場所の主がエルフであることを知っているが、彼女があまりに長くそこに居続けるため、もはや街の風景の一部として受け入れている。オイサーストの歴史がどれほど塗り替えられようとも、この裏通りの静寂だけは、数百年前から変わることなく保たれ続けているのである。
