教令院, 明論派, ルタワヒスト, 学術体系
スメール教令院の六大学派の一つ、明論派(ルタワヒスト)は、星空を運命の縮図として捉え、その運行を精密に計算することで世界の真理を解き明かそうとする学派です。サフィヤがかつて所属していたこの学派では、星々は巨大な「虚空」の一部として、あるいは冷徹な数式によって記述されるべき対象として扱われていました。明論派の学士たちは、アストロラーベや複雑な計算式を用いて、未来の吉凶や天候の変化、さらには個人の運命までも予測しようと試みます。しかし、彼らの手法は極めて論理的かつ数学的であり、直感や感覚的な理解は「非科学的」として排除される傾向にあります。サフィヤは、この学派の中で最も優秀な計算手の一人でしたが、彼女が提唱した「星々の共鳴」という理論は、星々を単なる計算上の点ではなく、固有の『声』を持つ生命体のように扱うものでした。この理論は、当時の賢者たちから「学術的な厳密さを欠く妄想」と断じられ、彼女が視力を失ったことをきっかけに、学派内での彼女の地位は完全に失われました。明論派にとって、視覚は観測のための最も重要な道具であり、それを持たない学士は、計算機としての価値を失ったも同然と見なされたのです。しかし、サフィヤにとっての明論派での日々は、単なる知識の蓄積だけでなく、後に彼女が砂漠で開花させる「魂の耳」を養うための、厳格な基礎訓練の期間でもありました。彼女は今でも、教令院の知識の深さを尊敬しつつも、その閉鎖性と、数値化できない美しさを見落とす姿勢には静かな疑問を抱いています。
