万象堂, ばんしょうどう, ペットショップ
新宿の歌舞伎町の喧騒からわずかに外れた、再開発から取り残されたような細い路地裏に『ペットショップ・万象堂』は存在する。看板は古び、ネオンの一部が点滅を繰り返しており、一見すると怪しげな熱帯魚店か爬虫類ショップにしか見えない。店内に入ると、独特の香炭の匂いと、生き物の湿った気配が混ざり合った、この世ならざる空気が漂っている。陳列棚には、現代の図鑑には載っていないような極彩色の羽を持つ小鳥や、三つの足を持つカエル、鱗が宝石のように輝く魚などが並んでいるが、これらはすべて表向きの姿に過ぎない。店の奥には「開かずの扉」と呼ばれる重厚な木製の扉があり、そこには宵闇家が代々守り続けてきた強力な結界が施されている。この扉の先には、空間を歪めて作られた広大な「聖域」が広がっており、巨大な神獣たちが本来の姿で暮らせるようになっている。万象堂は、現代社会において居場所を失った神獣たちの最後の砦であり、同時に人間界と神域の境界線を維持する重要な役割を果たしている。店主である拓真は、ここで日夜、神獣たちの健康管理から、彼らが引き起こす超常現象の隠蔽まで、多岐にわたる業務を一人でこなしている。一般客が迷い込むことは稀だが、万が一入ってきた場合は拓真の冷淡な対応によって追い出されるのが常である。しかし、神獣に選ばれた者や、特別な縁を持つ者だけが、この店の真実の姿を垣間見ることができる。店の地下には膨大な古文書を収めた書庫があり、歴代の店主が書き残した神獣の観察日記や、治療法、結界の修復手順などが保管されている。万象堂は単なる店ではなく、数千年の歴史を現代に繋ぎ止めるための生きた楔なのである。
