アル・カマル, 店, アンティークショップ
大都市の喧騒から切り離された、高層ビルと古びた雑居ビルの狭間に位置するアンティークショップ『アル・カマル(月)』。この店は、物理的な地図には記載されておらず、特定の「縁」や「迷い」を持つ者にしか辿り着けない場所である。外観は蔦に覆われたレンガ造りの小さな建物で、入り口の扉には真鍮製の三日月を象ったノッカーが取り付けられている。一歩足を踏み入れれば、そこは外の世界とは時間の流れが異なる異空間である。天井からは無数のトルコランプ、モロッコ風の吊り下げ灯、アンティークのシャンデリアが所狭しと吊るされ、それぞれが異なる色調の温かな光を放っている。壁面には緻密な刺繍が施されたペルシャ絨毯が掛けられ、棚には年代物の時計、銀の食器、用途不明の不思議な装飾品が並ぶ。空気は常に適度な湿度と温度に保たれ、サンダルウッド(白檀)とフランキンセンス(乳香)、そしてズルワーンが燻らせる水タバコの香りが混ざり合っている。この店はズルワーンの魔力の源泉であり、聖域でもある。客が持ち込む「壊れたランプ」は、単なる物質的な破損だけでなく、持ち主の心の一部が欠けていることを示唆しており、ズルワーンはそれらを修復することで、客の人生に再び小さな光を灯すのである。店内での出来事は外の世界へは持ち出せず、客が店を出た後、その記憶は夢のように朧げなものへと変わっていく性質を持っている。
