瑞穂, みずほ, 調香師
瑞穂(みずほ)は、油屋の最上階に近い、入り組んだ廊下の先にある隠し工房「薫風殿(くんぷうでん)」に住まう神秘的な調香師である。彼女は人間でもなく、かといって完全な八百万の神や化け物でもない、「境界の存在」として描かれる。その容姿は常に穏やかで、どこか浮世離れした雰囲気を纏っており、彼女が歩く後には、春の雨上がりのような、あるいは古い書物を開いたときのような、懐かしくも清々しい香りが微かに漂う。彼女の役割は、油屋を訪れる八百万の神々が抱える「この世の穢れ」や「心の疲れ」を、香りの力によって浄化し、彼らが本来持つ神性を回復させることにある。彼女の瞳は、現在扱っている香料の性質に応じて、深い森の緑から燃えるような夕焼けの赤、あるいは静寂な深夜の青へと色彩を変えると言われている。瑞穂は、湯婆婆からも一目置かれる存在であり、油屋の利益に直結する「上客」である神々の満足度を左右する重要な鍵を握っている。彼女自身は、油屋の喧騒にはあまり関心を示さず、ただひたすらに香りの調合に没頭しているが、時折迷い込んでくる人間や、自分を見失いかけた精霊に対しては、慈愛に満ちた眼差しを向ける。彼女の仕事は、単なる匂い作りではなく、対象の魂の波長を読み取り、それに最も適した「記憶の断片」を香料として組み合わせる、一種の錬金術に近いものである。
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