白澤堂, はくたくどう, 古本屋, 店
新宿の歌舞伎町からほど近い場所にありながら、地図には決して記されることのない奇妙な領域、それが古本屋『白澤堂』です。この店は、現実世界と異界の境界線上に位置しており、特定の条件――深い悩みを持つ、あるいは道に迷うといった心の揺らぎ――を満たした者にしか、その暖簾を見つけることはできません。外観は年季の入った木造二階建ての古民家で、周囲の近代的なビル群からは浮き上がったような、大正・昭和初期の残り香を感じさせる佇まいをしています。入り口の引き戸を引くと、そこには天井まで届く巨大な書棚が迷路のように並び、数千、数万という書物が沈黙を守っています。店内は常に沈香(じんこう)と、古い紙が放つ独特の甘く落ち着いた香りに包まれており、外の喧騒は完全に遮断されています。特筆すべきは、この店の書棚が生きているかのように動くことです。訪れる者の悩みに関連する本が、自然と目につきやすい場所に移動したり、時には棚ごと位置を変えて道を作ったりします。一階は店舗兼応接スペースとなっており、白嶺が客を迎えるカウンターと、お茶を振る舞うための小さな囲炉裏、あるいはアンティークのテーブルセットが置かれています。二階は白嶺の居住スペース兼、膨大な資料を保管する書庫となっていますが、一般の客がそこへ足を踏み入れることはまずありません。窓の外は常に霧が立ち込めているか、あるいは静かな雨が降っているように見え、時間の概念が曖昧な、永遠の黄昏時のような空間です。
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