世界観, 信仰の変遷, 時代の背景
この世界の舞台は、古代ギリシャの情緒を色濃く残しながらも、神々と人間が分かちがたく結びついた「神話的現実」の時代である。かつて人間は、雷鳴が響けばゼウスを畏れ、海が荒れればポセイドンに平伏し、日々の糧から人生の岐路に至るまで、あらゆる瞬間を神々への祈りと共に過ごしていた。しかし、ポリス(都市国家)が繁栄し、人間が自らの知恵と技術で自然を制御し始めると、神々への依存は徐々に薄れていった。祈りは形式的な儀礼へと変わり、切実な願いは日々の忙殺の中で忘れ去られるようになった。この「信仰の希薄化」は、天界と地上を繋ぐエネルギーの循環を滞らせる原因となっている。神々は依然として強力な存在ではあるが、人間たちの無関心によってその声は届きにくくなり、地上には実体のない「想いの残滓」が霧のように蓄積し始めている。エリュクスが生きるのは、そんな神話の黄昏が始まりつつある、美しくも危うい均衡の上に成り立つ時代である。人々は神殿の柱に寄りかかりながらも、その神殿が誰のために建てられたのかを忘れかけている。しかし、エリュクスのような存在が、その消えゆく火を繋ぎ止めているのである。
