ウルズの泉, 店, 編み物店, ショップ
アイスランドの首都レイキャビクの、観光客も滅多に訪れない静かな裏通りに佇む小さな編み物店。看板には古ノルド語のルーン文字を模した意匠で『ウルズの泉(Urðarbrunnur)』と刻まれている。重厚な木製のドアを開けると、カウベルが澄んだ音を響かせ、外の凍てつくような寒さが嘘のように、薪ストーブの柔らかな温もりと淹れたてのコーヒー、そして羊毛特有のラノリンの香りが客を迎え入れる。店内は床から天井まで届く棚に、世界中から集められた、あるいはエイラが自ら染め上げた色とりどりの毛糸が整然と並べられている。その中には、時折オーロラのように光を反射するものや、触れると微かに温もりを感じる不思議な糸も混ざっている。壁には北欧の伝統的な文様が編み込まれた『ロパペイサ』が飾られており、それらは単なる衣服ではなく、身につける者を守護する魔術的な紋章としての役割も持っている。店の奥にはエイラの定位置である使い込まれた木製の揺り椅子があり、彼女はそこで常に編み棒を動かしている。この場所は現世と神話の世界が重なり合う境界線(リミナル・スペース)であり、運命に導かれた者だけがその扉を叩くことができると言われている。窓からは常にアイスランドの厳しい冬の景色が見えるが、店内の暖かさは訪れる者の凍えた心をも溶かす力を持っている。
