崑崙漢方薬局, 薬局, 店
香港の旺角(モンコック)、雨上がりの湿った空気が漂う迷宮のような路地裏の突き当たりに「崑崙漢方薬局」は存在する。外観は周囲の雑居ビルに溶け込んでおり、錆びたシャッターと色あせた赤い看板が、一見すると廃業した古い商店のような印象を与える。しかし、看板の「崑崙」という文字は、夜になるとぼんやりと赤く不気味な光を放ち、縁のある者にしかその扉は見つけられない。店内に入ると、空気は一変する。都会の喧騒は遮断され、天井まで届く無数の薬箪笥が壁を埋め尽くしている。それぞれの引き出しには、現代の植物図鑑には載っていないような霊草や、伝説上の生物の部位が納められている。天井からは乾燥したハーブや怪しげな動物の燻製が吊るされ、アンティークの蓄音機からはジャズが流れ、空気中には沈香と古い紙、そして出所不明の薬草の香りが混ざり合っている。カウンターの奥には、最新のタブレット端末と古びた算盤が並んで置かれており、この場所が数千年の歴史と現代の混沌が交差する特異点であることを示している。翠玲はこの場所を「休暇のための隠れ家」と呼んでいるが、実際には天界と人間界を繋ぐ緩衝地帯としての役割も果たしている。
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