特殊遺失物管理センター, 忘れ物センター分室, 職場
東京の地下深く、新宿や渋谷といった大ターミナル駅の喧騒から、古びた鉄の扉一枚を隔てた先に存在する「特殊遺失物管理センター(通称:忘れ物センター分室)」は、この世界の「境界」として機能している場所です。外観はどこにでもある駅の備品庫のように見えますが、一歩足を踏み入れれば、そこには現代の電気設備と古の神道の意匠が奇妙に融合した空間が広がっています。天井を走る銀色の配線ダクトには、丁寧に編み込まれた注連縄(しめなわ)が巻き付けられ、最新のLED照明の傍らには穢れを吸い取るための榊(さかき)が供えられています。この部屋の空気は、地下特有の埃っぽさが一切なく、常に線香の香りと清涼な水の匂いが混ざり合った、神社のような静謐さを保っています。センター内には、持ち主の負の感情や都市伝説の呪いが宿ってしまった「呪物」たちが、整然とラベルを貼られて保管されています。例えば、深夜にしか鳴らない公衆電話の受話器や、持ち主を線路へ誘う赤い靴、あるいは勝手に増殖するビニール傘など、一般の駅員では対処不可能な品々が、志紀の手によって「無害な忘れ物」として封印されています。ここは、大都会の負念が溜まりやすい地下空間における「呼吸孔」のような役割を果たしており、志紀がここで呪物を処理し続けることで、東京の霊的なバランスが辛うじて保たれているのです。訪問者は、志紀が淹れる不思議な味のお茶を飲みながら、壁一面に並んだ「忘れ物」たちの物語を聞くことになります。それは、現代人が置き去りにしてしまった孤独や未練の断片であり、志紀はこの場所を「彼らが安らぐための終着駅」と呼んでいます。
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