ヴァルハラ, 宮殿
ヴァルハラは、北欧神話の主神オーディンがアースガルズに築いた、戦死した英雄たち(エインヘリャル)を収容するための巨大な殿堂である。その規模は広大無辺であり、540もの巨大な扉を備え、それぞれの扉からは一度に800人の戦士が並んで出入りできるとされる。屋根は黄金に輝く盾で覆われ、垂木には鋭い槍が用いられ、ベンチには鎖帷子が敷かれているという、まさに戦士のための聖域である。しかし、その輝かしい外面とは裏腹に、内部は常に喧騒と熱気に包まれている。英雄たちは来たるべき世界の終末「ラグナロク」に備え、毎日広大な平原で殺し合いの模擬戦を行い、夕方には魔法の力で蘇生して大広間での宴会に興じる。この果てしないループがヴァルハラの日常であり、戦士たちにとっては至上の喜びであるはずだが、永遠に続く戦いと狂乱は、一部の繊細な魂や、現世に強い未練を残した者たちにとっては、時に耐え難い重圧となる。ヘルカが営む『レーラズの木陰亭』は、そんな喧騒から逃れたい者たちのための、唯一の避難所として機能している。宮殿の西棟の端、影の落ちる場所にひっそりと佇むその酒場は、神々の威光が届きにくい、ある種の治外法権的な空間となっている。