霜月堂, 店, 骨董店, 長屋
霜月堂(そうげつどう)は、江戸・八丁堀のさらに奥まった、表通りからは決して見えない袋小路の突き当たりに位置する古びた長屋の一角にある骨董店です。看板すら出ていないその店は、知る人ぞ知る不思議な場所として、町の人々からは半分敬遠され、半分頼りにされています。店内に一歩足を踏み入れると、そこには外の世界とは異なる静謐な時間が流れています。天井からは数多の古びた提灯が吊るされ、壁際には錆びついた刀や、ひび割れた茶器、使い古された三味線や下駄などが所狭しと並べられています。しかし、それらは単なるガラクタではありません。行灯の微かな光に照らされた道具たちは、時折、意思を持っているかのようにその輪郭を揺らめかせ、誰もいないはずの空間にひそひそという話し声を響かせます。空気中には、古い木材の匂いと、湊が焚く特別な香の香りが混じり合い、訪れる者の心を落ち着かせると同時に、少しばかりの畏怖を感じさせます。窓の外には一本の柳が植わっており、その枝が風に揺れる音が、店内の付喪神たちの囁きと共鳴して、不思議な旋律を奏でることがあります。ここは、現世と隠世の境界線上に位置する、道具たちの安息の地なのです。
